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津地方裁判所 昭和45年(わ)136号 判決

本店所在地

三重県度会郡小俣町湯田一、七六七番地

美和産業

株式会社

代表者

代表取締役 中根直

本籍

東京都千代田区紀尾井町四番地

住居

三重県度会郡玉城町久保三〇九番地

会社役員

中根直

明治四三年二月一二日生

右の者等に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官森山英一出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人美和産業株式会社を罰金三百万円に処する。

被告人中根直を懲役四月に処する。

被告人中根直に対し、本裁判確定の日から二年間右刑の執

行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人会社は、三重県度会郡小俣町湯田一、七六七番地に本店および製造場を置き、錠前、建築用金物の製造、販売を業務とする資本金四、八〇〇万円の株式会社で、決算期を毎年五月末日と定めて右のような事業を営んできたもの、被告人中根直は被告人会社の代表取締役として同社の業務全般を統轄総理していたものであるが、被告人中根は昭和四〇年頃、被告人会社の経営の安定をはかると共に不況に遭遇した際の対策として含み資産をつくるため資金を畜積する意図をもつて、同会社の業務に関し不正にその法人税を免れようと企て、当時同社取締役で経理部長(会計、労務および資材課長を兼務)の職に在つた細田義男に対し、従来三五・六パーセントであつた毎月の材料比率を四〇パーセントに調節し、余分に発注した材料を簿外在庫として蓄積することおよび製品の製造過程で生ずる作業屑の売上の一部をも帳簿から除外することを命じ、同人等にその実施方を一任し、昭和四一年六月一日から翌四二年五月三一日に至る事業年度における被告人会社の所得金額が八、三五〇万二、〇四〇円でこれに対する法人税額が二、八一六万六、八〇〇円であるに拘らず、主要材料を公表帳簿上過大に消費したように計上して期末棚卸資産を除外し、作業屑等を簿外で売却して架空名義預金を設定する等の不正行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、昭和四二年七月三一日、伊勢市岩淵一丁目所在の所轄伊勢税務署において、同税務署長に対し、右事業年度における被告人会社の所得金額が二、七九三万一八四八円でこれに対する法人税額が八七三万四、〇〇〇円である旨虚偽の記載をした法人税確定申告書を提出し、以て不正の行為により右事業年度の同会社の所得金額に対する前記正規の法人税額の内一、九四三万二、八〇〇円の法人税を逋脱したものである。

(証拠標目)

一、被告人中根直の当公判廷における供述

一、同被告人の検察官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の同被告人に対する質問てん末書(四通)

一、同被告人作成の上申書(三通)

一、細田義男の検察官に対する供述調書

一、大蔵事務官作成の細田義男(四通)、和気尚雅(三通)、中島宜民(四通)、森本幸彦(三通)、中根淑子、近藤富久(二通)、松島、清水照平、西村俊吉、国領修、夏徳雨、斉藤正昭(二通)、横沢高雄、棚橋寛夫、富重新一郎、藤井勝次、祖父江正道、小泉修二、柿本確蔵、須貝一昭(二通)に対する各質問てん末書

一、細田勝男(一一通)、和気尚雄(二通)、中島宜民、光永泰彦(三通)、西岡勝昭、大北恒三郎、鈴木為喜、佐藤充哉、佐野準一、須貝一昭各作成の上申書

一、大蔵事務官作成の告発書

一、大蔵事務官作成の脱税額計算書

一、伊勢税務署長作成の証明書(甲)

一、登記官作成の会社登記簿謄本(昭和四五年二月一〇日付ならびに同年一一月一八日付各一通)

一、押収にかかる定期預金計算書一綴(昭和四五年押第五三〇号の一)、同一綴(同号の二)、預金関係メモ一枚(同号の三)、同一綴(同号の四)、同一綴(同号の五)、空封筒一枚(同号の六)、検質書一綴(同号の七)、領収書等一綴(同号の八)、雑書綴一綴(同号の一〇)、奥村関係綴一綴(同号の一四)、別途預金明細一綴(同号の一七)、ノート一冊(同号の一八)、スクラツプ関係納品書一綴(同号の一九)、不動産関係メモ一綴(同号の二〇)、不動産売買契約書一綴(同号の二一)、空封筒一綴(同号の二二)、手帳一冊(同号の二三)、預金メモ一枚(同号の二四)、定期預金メモ一枚(同号の二五)、商品物品出入簿一綴(同号の四四)、同一綴(同号の四五)、同一綴(同号の五六)、出庫重量表一綴(同号の五七)、定期預金通帳(仮名分)一冊一冊(同号の八七)、定期預金計算書一綴(同号の八八)、預金メモ一枚(同号の八九)、定期預金通帳一冊(同号の九〇)、定期預金計算書一枚(同号の九一)、メモ二枚(同号の九二)、原材料在庫手配等関係綴一綴(同号の九三)、出荷明細綴一綴(同号の九四)、ステンレス預り証明等綴一綴(同号の九五)、預り在庫出入明細等綴一綴(同号の九六)、材料受払簿一綴(同号の九七)、使用済普通預金通帳(中村三郎名義)一冊(同号の九八)、得意先カード二枚一綴(同号の九九)、預金メモ一枚(同号の一〇〇)、現金仕入帳等一綴(同号の一〇一)

(法令の適用)

被告人中根直の判示行為は、法人税法第七四条に違反する行為であるから同法第一五九条第一項を適用し、被告人美和産業株式会社については、当時同会社の代表取締役であつた被告人中根直が同会社の業務に関し判示違反行為をなしたものであるから同法第一六四条第一項、第一五九条を適用する。

(刑の量定)

被告人中根直の本件犯行の動機が、同被告人および弁護人の主張するとおりであつたにしても、前掲法条の立法趣旨に鑑み、単に自己の企業の安泰のみを計ることは許されないものといわなければならず、又本件犯行の手段、態様、逋脱金額、会社の営業規模、業態等を併せ考えると、その罪責は必ずしも軽いものとはなしえないけれども、逋脱にかかる税金はその後延滞税、重加算税等と共に既に全額納入済みであること、被告人は本件摘発以来翻然悔悟して率直にその非を認め、部下職員を督励して査察係官の調査に協力しており改悛の情顕著であり、また経営者として会社内外の信望の厚い人物であること、被告人会社は戦後伊勢地方の経済開発に貢献して来たものであつて、現在ドアロツクの生産においては我が国有数の会社としてその業績に見るべきものがあること等諸般の情状に併わせて本件申告課税標準額と正規の課税標準額との比率を考慮したうえ、被告人会社に対しては、前掲法条所定の罰金額の範囲内で同会社を罰金三百万円に処し、被告人中根直に対しては、前掲法条の所定懲役刑を選択し、その刑期範囲内で、同被告人を懲役四月に処し、刑法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 中原守)

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